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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)646号 判決 1984年7月26日

本籍

青森県八戸市小中野七丁目一番地の六

住居

東京都北区東十条三丁目三番一号

小田急マンション五一三号

会社役員

横田光男

昭和六年一二月八日生

本籍

東京都足立区千住中居町八〇番地

住居

埼玉県越谷市南町三丁目一八番一六号

会社役員

尾崎龍雄

昭和一〇年七月二〇日生

右両名に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人横田光男を懲役一年六月及び罰金七五〇〇万円に、被告人尾崎龍雄を懲役一年及び罰金二五〇〇万円にそれぞれ処する。

二  被告人らにおいて罰金を完納することができないときは、各金二〇万円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人横田光男、同尾崎龍雄は、福岡市博多区中洲一丁目三番五号及び六号において、「ホールインワン」及び「夕霧」の名称で、特殊公衆浴場を実質上共同で営んでいたものであるが、それぞれ自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一被告人横田は、

一  昭和五五年分の実際総所得金額が一億一五〇八万八七四九円(別紙一の(一)、(二)修正損益計算書参照(編者注、省略、以下同じ))あったのにかかわらず、昭和五六年三月一四日、東京都北区王子三丁目二二番一五号所在の所轄王子税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一七三六万七九六〇円でこれに対する所得税額が四七九万八〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第七三五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額七〇三五万七七〇〇円と右申告税額六五五五万九七〇〇円(別紙四ほ脱税額計算書参照)を免れ

二  昭和五六年分の実際総所得金額が一億七〇六五万四五二五円(別紙二の(一)、(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五七年三月一三日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一九八九万六九六〇円でこれに対する所得税額が六四二万五五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一二五七万七〇〇〇円と右申告税額一億六一五万一五〇〇円(別紙四ほ脱額計算書参照)を免れ

三  昭和五七年分の実際総所得金額が一億六七五三万一二〇四円(別紙三の(一)、(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五八年三月一一日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一八九五万三九六〇円でこれに対する所得税額が五九四万一五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一〇二一万五〇〇〇円と右申告税額との差額一億四二七万三五〇〇円(別紙四ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二被告人尾崎は、

一  昭和五五年分の実際総所得金額が四四〇一万四七五一円(別紙一の(一)、(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年三月一六日、埼玉県越谷市赤山町五丁目七番四七号所在の所轄越谷税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が三五四万七二四八円でこれに対する所得税額が二九万六三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二〇五六万五〇〇円と右申告税額との差額二〇二六万四二〇〇円(別紙五ほ脱税額計算書参照)を免れ

二  昭和五六年分の実際総所得金額が七一三〇万八五八三円(別紙二の(一)、(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五七年三月一三日、前記越谷税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が八八七万七一六四円でこれに対する所得税額が一六六万五六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三八八二万七八〇〇円と右申告税額との差額三七一六万二二〇〇円(別紙五ほ脱税額計算書参照)を免れ

三  昭和五七年分の実際総所得金額が七二一三万四一六九円(別紙三の(一)、(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記越谷税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が八四三万六四三〇円でこれに対する所得税額が一四八万六二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三九三四万三一〇〇円と右申告税額との差額三七八五万六九〇〇円(別紙五ほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人らの当公判廷における各供述

一  被告人らの検察官に対する各供述調書(各三通)

一  収税官吏作成の次の調査書

売上調査書

雑収入調査書

タバコ代調査書

公衆電話費調査書

交通費調査書

フロント雑費調査書

清掃費調査書

租税公課調査書(昭和五八年一二月八日付)

通信費調査書(昭和五九年六月一五日付)

水道光熱費調査書(昭和五八年一二月八日付)

消耗品費調査書

損害保険料調査書

広告宣伝費調査書(同年一二月九日付)

接待交際費調査書(同月九日付)

修繕費調査書(同年九日付)

器具備品費調査書

組合費調査書(同月九日付)

福利厚生費調査書(同月九日付)

事務所家賃管理費調査書

店舗家賃調査書

給料調査書(同月一〇日付)

顧問料調査書

燃料費調査書

リース料調査書

コカコーラ費調査書

クリーニング費調査書

おしぼり費調査書

タイル保温工事費等調査書

雑費調査書(同月一〇日付)

A支払金額調査書(トルコ夕霧)

A支払額調査書(ホールインワン)

分配損調査書(昭和五九年六月一五日付)

改造費回収分調査書

家賃と表示の横田光男の取り分金額調査書

顧問料と表示の尾崎龍雄の取り分金額調査書

地代と表示の尾崎龍雄の取り分金額調査書

家賃と表示の尾崎龍雄の取り分金額調査書

尾崎と表示の尾崎龍雄の取り分金額調査書

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書(いずれも被告人横田に関する分)

租税公課調査書二通(各昭和五八年一二月一二日付)

通信費調査書(同月二三日付)

旅費交通費調査書

接待交際費調査書(同月一二日付)

減価償却費調査書二通(各同月一二日付)

繰延資産償却費調査書(同月一二日付)

雑費調査書(同月一二日付)

雑損失調査書

収入金額調査書(同月一二日付)

修繕費調査書(同月一二日付)

地代家賃調査書

その他の経費調査書(同月一二日付)

利息収入調査書

一  押収してある所得税確定申告書等三袋(昭和五九年押第七三五号の1ないし3)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書(いずれも被告人尾崎に関する分)

租税公課調査書二通(昭和五八年一二月一三日付、同月一四日付)

通信費調査書(同月一三日付)

水道光熱費調査書(同月一三日付)

組合費調査書(同月一三日付)

広告宣伝費調査書(同月一三日付)

接待交際費調査書(同月一三日付)

福利厚生費調査書(同月一三日付)

給料調査書(同月一三日付)

家賃調査書

調査費調査書

研修費調査書

募集費調査書

貸倒金調査書

減価償却費調査書(同月一三日付)

繰延資産償却費調査書(同月一三日付)

青色専従者給与調査書

事業専従者控除調査書

地代収入調査書

その他の経費調査書(同月一四日付)

青色申告控除調査書

収入金額調査書二通(各同月一四日付)

必要経費調査書

譲渡時簿価調査書

特別控除額調査書

一  越谷税務署長作成の証明書二通

一  押収してある五五年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の7)

(法令の適用)

一  罰条

被告人横田の判示第一の一の所為及び被告人尾崎の判示第二の一の所為につき、行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項、裁判時において右改正後の所得法二三八条一、二項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

被告人横田の判事第一の二、三の各所為及び被告人尾崎の判示第二の二、三の各所為につき、右改正後の所得税法二三八条一、二項

二  刑種の選択

いずれも懲役刑と罰金刑の併科

三  併合罪の処理

いずれも刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(刑期及び犯情の重い判示第一の二及び同第二の三の罪の刑にそれぞれ加重)、罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

各刑法一八条

(量刑の理由)

被告人両名は、福岡市博多区内のいわゆるトルコ街において、昭和五〇年九月から特殊公衆浴場「夕霧」を、昭和五一年一一月から同「ホールインワン」を共同経営し、被告人尾崎が現地に常駐して両店の営業を直接指導監督していたが、将来正業に転進する資金や個人資産を蓄積するため、当初から脱税を企画し、自らは経営者として表面に出ないように、営業許可を従業員名義で受け(「ホールインワン」では開業時永谷正夫、その後水野ひろ子、後藤宏一と順次変更、「夕霧」では開業時被告人尾崎名儀であったのを同被告人が売春防止法違反罪で検挙された昭和五五年三月から後藤宏一に変更)たうえ、事業収入である入浴料金を表勘定と裏勘定に分けて入れ、経費のうち税務調査により実際の売上が推計されるおそれのあるコーラ代、おしぼり代、クリーニング代はその一部を裏支払いにして収入の秘匿を図るとともに、事業収入の申告に関しては、税務署に対して営業名義人で適当な額を申告し、他方裏勘定に回った収入は、被告人尾崎において仮名預金にして保管したうえ、あらかじめの約定に従い、被告人横田が六分、同尾崎が四分の割合で分配されていたが、被告人らは右の事業収入にかかる所得については全く申告をしておらず、その結果、被告人横田は本件三年分の所得税合計二億七五九八万円余、被告人尾崎は同合計九五二八万円余をほ脱するに至ったものである。

このように、本件犯行は計画的継続的であって、被告人らの納税意識は甚だ稀薄といわなければならないし、所得秘匿の方法も周到かつ巧妙で動機経緯にも格別酌むに値する事情はなく、脱税額も被告人横田は特に高額で、正規の税額に対するほ脱の割合はいずれも九〇パーセントを超えていることを考えると、本件の全体的犯情は悪質というほかない。

被告人らの個別の情状についてみると、被告人横田は、昭和四〇年ころからトルコ業界に身を置き、昭和四六年には東京に在住しながら、博多区においてトルコ「石亭」及び「桃山」を経営し、昭和四八年九月ころから被告人尾崎を派遣して右店舗の経営をまかせ、のちに同被告人とともに「夕霧」の土地を購入し、自らの費用で店舗を建てて「夕霧」を開業し、次いで右「石亭」等が建て替えられた店舗を借りて「ホールインワン」をも経営するようになったものであるが、被告人尾崎に本件トルコの営業を全面的にまかせて、終始経営者として表面に出ず、同被告人から毎月営業状態や収支の状況についての報告を聞いて取り分の多い分配金を受取り、同被告人が売春防止法違反罪で検挙され有罪判決を受けたことを十分承知しながら、自戒することなく依然として同様の営業状態を継続させてきたのであって、かかる被告人横田の本件トルコ営業における立場、経過、収益分配の状況、脱税額等に照らすと、被告人横田の刑責は被告人尾崎より重いというべきである。被告人尾崎は、トルコ風呂相手のクリーニング店を営んでいる時被告人横田と知合い、同被告人に請われて前記のとおり昭和四八年九月福岡市に赴き、以来現地に留まって、直接の責任者としてトルコ風呂の経営に専心してきたのであるが、本件脱税のもととなった経理処理の仕方や秘匿された所得の管理の方法は、被告人横田も同意していたとはいえ、直接には被告人尾崎が考え実行してきたのであって、その責任は重いといわなければならないし、さらに被告人尾崎は、昭和五五年七月二日福岡地方裁判所において、「ホールインワン」における売春の場所提供を内容とする売春防止法違反罪で、懲役一年及び罰金三〇万円、三年間懲役刑の執行猶予の判決を受けたにもかかわらず、取り締まりを逃れるため営業許可の名義を従業員に変えただけで、同年九月末から同店を再開し、従前と変らぬ体制で営業を継続し、その結果右猶予中に本件各犯行に及んだのであり、判決に対する反省も自戒もみられず、被告人尾崎の法軽視の態度は顕著である。

以上の諸点を総合すると、被告人両名が本件対象年分を含め五年分の所得につき修正申告をして本税を完納し、附帯税についても一部納付していること、捜査公判を通じ犯罪事実を認めて改悛し、新たな事業で生計を立てていることなど被告人両名に有利に斟酌すべき諸事情を考慮に入れても、被告人両名に対し懲役刑の執行を猶予するのは相当でないと認められるので、主文のとおり量刑する。

(求刑 被告人横田につき懲役二年及び罰金九〇〇〇万円、被告人尾崎につき懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

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